深海魚の夢~もし、君が生きていたなら~
"生かされている"というのは、好意的な意味ではない。
こうして二人でシーツの波におぼれて、深海魚のように縺れ合っている瞬間が唯一の自由に感じる。
…この世界は、窮屈で退屈で、息が詰まる。
退屈凌ぎに眺めていた図鑑を床に放り、私は全裸のまま仰向けに寝転がると、窓辺に置いてあるスターウォーズのフィギュア達が逆さまに視界に入る。
もしも天井が床で、床が天井だったなら、すべてがぶら下がった世界になる。
空を歩道にして、広大な海を空に出来たなら面白いのになあ、と密やかに思った。
重力なんて、なければいいのに。
私の思考は、割と変だ。
変な事でも考えていないと生きていけない、そんな息抜き方、というか、生き抜き方しか知らなかった。
…でも、それでも良かった。
カナタと、二人なら。
「…お前には恥じらいっつーもんがねーな」
「今更、ないしそんなの」
それから時は経ち、二十五にもなって定職にも就かず、夢を追っているカナタを支えたくて此処まできた。
周りの友達が次々に結婚していく中、私は現実的な幸せを望めそうにない、と思う。
私は今年で、二十八歳になる。
母親が私を生んだのと同じ齢だ。
カナタの部屋にあるエレキギターや機材を一瞥して、哀しく笑う。
カナタは、Re:tire(リタイア)というバンドでギターを弾いている。
まるで恋人を愛でるようにギターを奏でる彼を見て私が釘付けになったのは、もう五年も前の事になる。
季節が過ぎるのは早い。
まだ若いからと大目に見ていた事さえ、最近では少しだけ厭な空気を纏っていた。
…尤も、カナタがそれを自覚しているのか定かではないけれど。