深海魚の夢~もし、君が生きていたなら~


口当たりの良いワインを飲みながら、店の中にある水槽に視線を遣ると、何匹かのカラフルな魚達が泳いでいる。

ブクブクと次々に供給される酸素の泡を見ていたら酔いが回ってきた。

ユラさんは静かなペースで酒を口にしている。

寡黙を破って言われた台詞に、私は思わず固まった。


「ルカは誠実だけど…カナタさんに注意されたらいかがですか?」

「え?」

「あの男、ハルさんに相応しくないんじゃないですか」


──…冷たい目。

ユラさんのこんな表情を初めて見て、背筋に悪寒が走る。

カナタも少し前にこのHeavenに来たらしい。

女連れで、と言われて胸が痛くなったのは気のせいではないのも、自覚している。


「カナタさんが一番、昔と変わりましたよ。気づいているでしょう?」

「…随分詳しいんですね」

「はい、実は僕は──」


ユラさんが話してくれたのは、自分がまだバンドをやっていた時、Re:tireと一緒にライブをする機会があった時の事。

一度目に顔を合わせた時のカナタは最高に良い性格だったのに、数年後には変わり果てていた、という内容だった。


「Re:tireを脱退するとしたら、カナタさんだと思いますよ。ルカとズッキーは絶対に辞めない」


──音楽への道を諦めた僕だから、Re:tireには頑張って欲しいと思っている。

僕から見ると、カナタさんだけが浮ついた気持ちでギターを弾いているように見えます。

口には出さないけど、ルカもズッキーも心配しているんですよ。


淡々と、それでいて優しく、ユラさんは言った。



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