深海魚の夢~もし、君が生きていたなら~


新生Re:tire。

ボーカルがユラさん。

ギターがジュリ。

ベースはズッキー。

…そして、ドラムは、ソラくん。

見てもいないのに、四人がステージに立っている姿が脳内に再生された。

ユラさんがボーカルになれば、一気に華やかさが増して動員も増えるだろう。

プロポーズまで受けたというのに、薄情な私の脳内には、既にカナタの存在はなかった。


「次のライブまで二ヶ月あるので、僕もソラくんも必死で練習してるんですよ」

「カナタはこう言ってるから」


再び見せられたジュリの携帯のメール画面。

日付は、昨日になっていた。


『俺は今日付けでRe:tireを脱退で宜しく、解散ライブには出ない。今までありがとう』


解散ライブには出ない──


驚いた。


「俺は説得したんだけどな、最後にもう一回Re:tireで弾いて欲しいって。カナタのファンがいるのに申し訳ないと思わないのかって聞いたら、返事はなかった」


俺、一応カナタの幼なじみなんだけどな。

ジュリは寂しそうに言うと、他のテーブルへと移り客の女の子へのリップサービスを始めた。

「ジュリも僕もズッキーも、ハルさんの嫌いな"営業"をしますけど」


これからのRe:tireの為ですからね、とユラさんは言った。

…なんだか、カナタにプロポーズをされた時よりもドキドキして、胸が踊るワクワク感を覚えたりして。


「私も、Re:tireの宣伝頑張ります」


この四人のメンバーなら、きっと上にいける。

不思議な確信があった。




< 33 / 40 >

この作品をシェア

pagetop