深海魚の夢~もし、君が生きていたなら~
「ジュリが曲持ってきたから、俺が歌詞書いてきたんだけど…」
ユラさんが遠慮がちに、手元の透明なファイルからルーズリーフの紙を取り出す。
覗き込むと、そこには丁寧な文字で描かれた彼の独特な世界が広がっていた。
【──想うくらいなら求めないで。
憎むくらいなら愛さないで。
犠牲を気取って、縁執られた恋に夢を追って、殺さないでってすがるんでしょう?
愛は劇薬だと僕が研ぐと君は笑顔でそんなことないよって、尖った毒針を翳しながら。
──信じる残酷さに疲れたよ。
裏切るのが真実の愛?
笑っちゃうね、
僕のなにをも知らない癖に。】
紙を覗き込んだソラくんと私、ズッキーも息を呑む。
凄い歌詞だろ、ユラの感性だ、とジュリが自慢気に言って、炎のモチーフが彫られたジッポで煙草に火を点けた。
「新生Re:tireのコンセプトは"恋愛を諷刺する"でいこうと思うんですが」
ユラさんの提案にソラくんが首を傾げて、俺は諷刺よりもラブラブなほうが好きだなー、なんて最もな事を言う。
私も同感だった。
「そうだよ、暗い歌詞なんかウケが悪いんじゃない?」
「ヴィジュアル系だからいいんだよ」
「万人ウケを狙わなければいい、俺はコアなファンについて欲しいと思ってる」
「俺も同感。今までのRe:tireから脱皮したいんだ」
「…え、俺も化粧するんっすか!?」
ジュリもズッキーも、ユラさんの歌詞に同調している様子で、私とソラくんの意見は却下されそうな勢いだ。
最後まで渋っているソラくんは、ジュリが、お前はツベコベ言わずにドラム叩け、なんて頭を叩かれて強制的に説得させられていた。
…こんなに真剣にRe:tireについて考えてくれている三人には、異論は唱えられなかった。