深海魚の夢~もし、君が生きていたなら~
ユラさんがジュリに向ける視線は鮮やかで柔らかくて、愛しいものでも見るかのように優しかった。
『…誰?この女。中の下じゃん』
私が初めてジュリを見たのは、ステージの上。
凄い才能がある奴がいるんだ、俺の幼なじみなんだけど、と紹介されたのが始まり。
ジュリとカナタは当時は別々のバンドをやっていたのだけど、凄く仲が良くてよく一緒に遊んだり、即席で同じステージに立ったりもしていた。
…でも、二人がRe:tireに入ってからは剰り仲が良くなかったようだ。
第一印象が最悪だったジュリと、カナタと別れた後も一緒にいるとは思わなかった。
当の本人も『中の下』の女と一緒にやっていくなんて考えもしなかっただろう。
携帯を指先で操作するジュリが、渋い顔をして哀しそうに呟く。
「…カナタの奴、LINEもTwitterも抜けてやがる。アカウント消えてるし」
舌打ちをして不機嫌になるジュリの本心は、寂しいのだとわかる。
口は悪いけど、根はいい奴だと今になってわかった。
Heavenで名を馳せる二人だというのに、ズッキーも含めて、客の女と深い関係になった事はない、と言う。
それなのに、ネット上では『Re:tireのルカは女とヤりまくり』なんて書かれてて。
立ち回りが悪いだけで、音楽に対してはこんなにも真っ直ぐな奴だったなんて。
「…やっぱりルカとハルさんってちょっと似てるね」
「はぁ?」
「どこがですか!」
直ぐムキになるかと思えば、人一倍気を遣うところとか、とユラさんは続けて再び綺麗な笑顔を見せる。
「でも、カナタを捨てるあたりハルは大物だよな」
「捨ててないってば!」
「プロポーズ蹴ってまで──」
「ちょっ!なんすかプロポーズって!」
「…あ、ソラはカナタの事知らないんだったな」
プロポーズという単語に反応を大きくするソラくんに、ジュリは、悪い悪い、と片手を振った。