逆ハーレムに巻き込まれました。
それが私の正体です
■10■
―――――…
――――――…
「……むかしむかし、森の奥に吸血鬼が住んでいました」
戦いの余波で、大量の種類が散らばる生徒会室。
その床に座り込んだ私は、壁に寄りかかりながら小さな声で物語を諳(そら)んじる。
「森の奥で、吸血鬼は人々の血を吸いました。
血を吸われた人々は、吸血鬼のワナによって感情まで奪われてしまいました。
危機感を感じた他の人々は、みんなで吸血鬼を倒しに行きました。
吸血鬼は抵抗しましたが、最後は殺されてしまいましたとさ」
……語り終えた私は、窓ガラスに映る自分の姿を見て自嘲気味に微笑んだ。
「……この話を作った人も、まさか想像してないだろうねぇ。
その吸血鬼が、今もここで生き延びてるなんて……さ」
私はそう呟きながら、口の端から零れる唾液混じりの血を乱暴に袖で拭った。
ちなみに、この血は私のものではない。
指先を私に噛まれ、急激に血と――その中に含まれる魔力を失って気絶した、サクヤ先輩のものだ。
……そう。
私の正体は、普通の人間なんかじゃない。
人間の敵である、魔族の一種――吸血鬼なのだ。