もしも私が―。
『あれは私?じゃあ、私が今見ているのは、私の記憶?』
とりあえず私は私に近づいてみた。すると記憶の中の私は、目を伏せた。中を見てみると、男達がお兄さんに注射を打ったところだった。
見る見るうちに、お兄さんの様子が変わり
お兄さんは絶叫した。
(何度聞いても嫌な声……)
私は、耳を塞ぎながらも、目を離さず見ていた。お兄さんがどんどん化物に変わっていく。
『やっぱり、化物はあのお兄さんだったんじゃない』
私が呟くと同時に、記憶の中の私は逃げ出した。
(このまま帰るんだ。やっぱり、あいつらの嘘だったんじゃない)
そう思った時、見覚えのある顔と擦れ違った。
(今のは……幟呉!)
後ろを振り向くと同時に、ヤクザっぽい人達も私の横を通り過ぎて行った。
私は急に、不安になった。その時だった!
「グオオ!」
突然化物になったお兄さんが、椅子から転げ落ち、苦しみだした。
『何!?』
私が驚いている間に、どんどん化物になった顔がボコボコ音を立てて溶けて行く。その直後、私の横から陽気な声がした。
「おい!捕まえてきたぞ!」
『嘘!?』
私は戸惑いながら、横を向いた。大柄な男の腕には、気絶している私がいた。
『嘘でしょ!?きっとこの後、目を覚まして逃げるのよ!そうでしょう!?』
「何あれ威張っちゃって!捕まえたの幟呉だろぉ?」
聞き覚えのある声が聞こえた。靱だ。隣には永璃もいる。
「まあな。少し抵抗されたから眠ってもらった」
「どうしますか?この子」
白衣を着た男の人が金髪の女の人に聞いた。どこか見覚えがある。
『あの女……エリス!?……エリスだ!』
「そうねぇ、この子にも打ってみましょうか~~?」
『え?今……何かジリッって、何て言ったの?』
一瞬、言葉が聞き取れなかった。
『あれ?ちょっと待って!音が!音が……聞こえない!』
音が掻き消されてしまったみたいに、聞こえなくなった時だった。
『何……何してるの!?やめてよ!』