もしも私が―。

『あれは私?じゃあ、私が今見ているのは、私の記憶?』

 とりあえず私は私に近づいてみた。すると記憶の中の私は、目を伏せた。中を見てみると、男達がお兄さんに注射を打ったところだった。

 見る見るうちに、お兄さんの様子が変わり
 お兄さんは絶叫した。

(何度聞いても嫌な声……)

 私は、耳を塞ぎながらも、目を離さず見ていた。お兄さんがどんどん化物に変わっていく。

『やっぱり、化物はあのお兄さんだったんじゃない』

 私が呟くと同時に、記憶の中の私は逃げ出した。

(このまま帰るんだ。やっぱり、あいつらの嘘だったんじゃない)

 そう思った時、見覚えのある顔と擦れ違った。

(今のは……幟呉!)

 後ろを振り向くと同時に、ヤクザっぽい人達も私の横を通り過ぎて行った。
 私は急に、不安になった。その時だった!

「グオオ!」

 突然化物になったお兄さんが、椅子から転げ落ち、苦しみだした。

『何!?』

 私が驚いている間に、どんどん化物になった顔がボコボコ音を立てて溶けて行く。その直後、私の横から陽気な声がした。                       

「おい!捕まえてきたぞ!」                       

『嘘!?』

 私は戸惑いながら、横を向いた。大柄な男の腕には、気絶している私がいた。

『嘘でしょ!?きっとこの後、目を覚まして逃げるのよ!そうでしょう!?』

「何あれ威張っちゃって!捕まえたの幟呉だろぉ?」

 聞き覚えのある声が聞こえた。靱だ。隣には永璃もいる。

「まあな。少し抵抗されたから眠ってもらった」

「どうしますか?この子」

 白衣を着た男の人が金髪の女の人に聞いた。どこか見覚えがある。

『あの女……エリス!?……エリスだ!』

「そうねぇ、この子にも打ってみましょうか~~?」

『え?今……何かジリッって、何て言ったの?』

 一瞬、言葉が聞き取れなかった。

『あれ?ちょっと待って!音が!音が……聞こえない!』

 音が掻き消されてしまったみたいに、聞こえなくなった時だった。

『何……何してるの!?やめてよ!』
< 35 / 36 >

この作品をシェア

pagetop