もしも私が―。
工場の内部はホコリっぽく、錆びれた機械がたくさんおいてあって、薄暗くて不気味。
そこら辺を右往左往していると、二階までの階段を見つける。
確か、悲鳴は上の方から聞こえたから、二階よね? この工場二階までしかないし。
その階段をゆっくりと上っていくと、左に長く続く廊下があった。
その廊下を、そろりそろりと、緊張しながら歩いていると、いくつかあるドアのない部屋の一つから、異様な臭いが漂ってきた。
今まで嗅いだことのない臭い。
香水をつけすぎた人のきっつい臭いにも少し似ている。薄めれば良い匂いになりそう。百万倍も薄めればって感じだけど……。
その強烈な香りは、私のいる部屋の前から漂っているようだった。そろりと中をのぞく。
中の様子に自分の目を疑った。
「おい!誰かこいつに水かけろ!」
一見ヤクザみたく見える男の人が、椅子に縛り付けられているお兄さんを指差し、後ろにいる仲間にそう命令した。
命令どおりにバケツいっぱいの水を椅子に縛られているお兄さんにぶちまけたヤクザっぽい人の仲間数人の他に、白衣を着た人が数人がいる。
(……何だこの集団……)
一瞬ギャグかとも思った。
ううん、ギャグであって欲しいと思ったんだ。
そう思ってもなお、この場から逃げないのは怖いからじゃない。
ううん、恐怖もある。
でも、好奇心の方が私を支配している。
……何かに期待してる。
(何をしているんだろう? あれって、注射器だよね?)
白衣を着た人達が、薄いピンク色をした液体の入ったビンを取り出し、注射器で吸い取った。その液体を嫌がり抵抗するお兄さんに打った。
「うわああああ!」
私は思わず耳を塞いだ。どこまでも響いていきそうな悲鳴。
その瞬間!
「ええ!?」
お兄さんの口が裂け、血がいっぱい吹き出して、信じられない事に……頭からツノが生えてきた。
お兄さんは見る見る化け物になっていく……苦しそうだった。
「なっ……に!?何なの!?アレ!」
思わず、一歩下がる。その拍子に、横にして置かれていた梯子に、足があたった。
カターン……高い音が鳴り響く。
「誰だ!?おい見て来い!」
「やばい、やばいよ!逃げなくちゃ!」
ヤクザの人達が近づいてくる! 私は必死になって走った!走って走って……。