俺がイイんだろ?
「…ちょっと1人になってくるよ」
「…あぁ」
そう言って帝は去って行った。
やっぱり様子がおかしい。
追いかけようか迷ったけど、きっと今俺が聞いたところで帝は答えてはくれないだろう。
「はぁ…」
みんなには心の底に闇がある。
もちろん俺もだ。
きっとひかりにだって…
そんなことを考えていたら、いきなり携帯の着信音が鳴った。
「ん…誰だ?」
携帯のディスプレイを見ると、“てん”と表示されていた。
てん…?
「もしもし?」
『あぁ、きょうか?
久しぶりだな』
「そうだな。
いきなりどうしたんだ?」
てんの声を聞くのは二年ぶりだ。
なのになぜか落ち着いていた。
『今日CDの発売日だったよな』
「……は?」
今なんて言った…
『Lily&crowのシングル、今日発売だろ?
おめでとう』
「おいてん…」
『いい曲だったよ。
お前らしさが出て…なかったけどな』
「てん…なんで知ってんだよ…」
『二年前、お前が上京する前から知ってた』
なんで…
一回も言ったことなんて…
『お前には言ってなかったな。
俺龍汰と同級生で、すげぇ仲良かったんだ』
「は!?」
同級生って…
そんな繋がりだけで俺のことなんか…
『実はな…きょう』
「なんだよ…」
『お前を引っこ抜いていいか?って交渉してきたんだよ、龍汰が俺に』
「なっ…」
なん…だと…
驚きの連続に頭が混乱する。
「それで…どうしたんだよ」
『あっさり俺はOKした。
お前を持っていかれるのは確かに嫌だったけどな』
「あっさりOKって…
何考えてんだよお前…」
いつものてんと様子が違う。
なんなんだ今日。
様子違う奴が多すぎる…
『お前、プロになりたいって言ってたよな?』
「あ、あぁ…」
『お前にとっていいチャンスだと思った。
才能がお前にはある。
だからプロになって欲しかった』
「……」
今てんが言っていることは紛れもない本心だと思う。
だけど…
何か違う理由がある気がしてならない。
嫌な予感もする。
「…てん、それだけじゃねぇだろ」
『…フッ、ほんとお前は鋭いよ』
さっきとは違う、穏やかな声になるてん。
『あぁ、それだけじゃねぇよ』
「なんだよ…」
心臓がバクバク鳴る。
俺の耳まで届くくらい。
『…ひかりちゃんから離したかったんだよ』
「え……」
何言ってんだよてん…
『お前の側に置いときたくなかったんだよ』
冗談よせよ…
それじゃまるで…
「てんがひかりを好きみたいじゃねぇかよ…」
『……そうだ』
「!?」
嘘…だろ。
目の前が真っ白になる。
俺の身体は石のように固くなった。
『…っつーのは嘘だよ』
「は?」
一気に現実に戻された気分だった。
『悪ぃ悪ぃ。
ちょっとからかった』
電話越しに笑っているてん。
いまいち俺は状況が理解できていなかった。
「ちょっと待て…
ひかりのこと…」
『好きだよ。
妹みたいな感じの方でな?』
「な、なんだよ…ビックリさせんなよ…」
身体の力が一気に抜けて、俺はイスにもたれかかった。
『ははは!
お前のひかりちゃんへの気持ちを再確認したかったんだよ』
「そうかよ…
今でも俺は好きだ」
『なら安心だ。
安心してお前をライバルにできる』
ら、ライバル…?