俺がイイんだろ?

-天馬side-


ピッ


ついきょうと喋ると長電話になっちまうな…

久しぶりに聞いたきょうの声は、一見昔とは変わっていない。
だけど、何かが違う。
きっと…音楽性の違いだと俺は思う。
Lily&crowは正統派ロック。
バラードも時々やる。
ロックと言えばロックだが、きょうのロックはパンクロックの激しい方だ。
俺が勝手に思っていることかもしれないが、きょうはきっと満足していないはずだ。

多分…
きょうは俺達のところへ戻ってくる。
だけど、俺達がLily&crowを越えるか…同じ位置に立たないと無理だ。

そんなことを考えていた時、リビングで曲を作っていた幸之心がいきなりうめきだした。

「あぁぁぁあ!
いいフレーズが思いつかない!」

「…幸之心、お前いつ帰るんだ」


幸之心が俺の家に来たのはひかりちゃんが上京したその日。
1日中ずっと俺の家にいて曲を熱心に作っていた。


「あーダメ!
全然思いつかないや」

「だから…お前いつ帰るんだよ…」

「え?
曲が出来るまでに決まってるじゃないですか!」

「おいちょっと待て…」


この調子で曲作ってたら1週間…いや、1ヶ月くらいかかるだろ。


「勘弁してくれ…」


コーヒーを淹れ直して、幸之心の隣に座る。


「…だって、ひかりも美嘉さんもいないんじゃ…
僕何もやる気しませんよ…」


シュンと肩を落とす幸之心。

確かに俺もそうは思うけどな…


「美嘉はソロでプロになるから一緒にバンドは組めない。
だけど…ひかりちゃんのために曲作るのはどうだ?幸之心」

「ひかりのために…」

「あぁ。
バンド、再結成してプロ目指すんだろ?」

「…うん!」


幸之心は笑顔で曲作りに戻った。

俺も残った仕事するか…

デスクに戻って仕事を片付ける。


「らららー…」


真剣な表情をしながら、アコギを弾いて曲を作る幸之心。

あいつも…少し大人になったな。

そんな幸之心を微笑ましく思った。
仕事は深夜過ぎまで続いたが、俺が仕事を終わらせる少し前まで…リビングにはアコギの音が優しく鳴っていた。






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