俺がイイんだろ?

-スタジオ-


「うぃーっす!」

「お久しぶりです!」


美嘉は軽快に中へ入った。
私はお辞儀をしてスタジオへ入ると、見慣れたメンバーが迎えてくれた。


「ひかりー!」

「うわっ!?」


いきなり私に抱きついてきたのは、コウ。
私と美嘉より1つ歳が下の、パートはドラム。


「コウ、いきなり抱きつかないでー!」

「えぇーっ
いいじゃん別にー」


無駄になつっこくて、犬みたいな子。
だけど…


「のしん、あんまりひかりにベタベタすんなよー」

「幸之心、ひかりちゃんを困らせるな」

「……」


や、ヤバい!
コウが…!


「美嘉さん…天馬さん…
その呼び方、やめてって前から言ってるよね…?」

「こ、コウ!
怒っちゃダメだよ!」

「あ?
やんのかガキんちょ」

「なにを!!」

「ちょ、ちょっと美嘉コウ!
喧嘩は…!」

「やらせておけ」


私の肩にポンと手を置いてため息をついているのは、このバンドのリーダー、天馬さん。
歳は23歳で、公務員だけどピアスをいっぱいしてる人。
でもしっかりしてて、すごく素敵な人だと思う。


「美嘉さんだって身長小さいじゃん!」

「アンタと同じくらいだっつーの!」


もう関係ない喧嘩になってるし…

美嘉とコウの喧嘩はいつものこと。
コウは自分の幸之心っていう名前が嫌いだから、幸之心って呼ばれると怒っちゃうんだ。
天馬さんにも怒ってはいるけど、どこかコウは引いていて、ちゃんと怒ってはいない。
その分美嘉には強く当たるんだけど(笑)

そんな二人を微笑ましく思いながら、私は定位置にあるパイプ椅子に座った。
いつの間にか美嘉とコウは喧嘩をやめて、真剣に練習に取り組む。

あ…そういえば、新しく入ったギターの人来てないな…

心の中でそう思いながら、ただパイプ椅子に座っていると、


ガチャ


「どうも」


スタジオに入ってきたのは、すごくロックな格好をして…黒髪に赤メッシュが入った短髪、ピアスをいっぱいしていて、切れ長の目…
それに身長が高くてスラッとしてて…
なぜかすごく惹き付けられてしまった。
こんな気持ち初めてだった。


「おせんだよ京平!」

「あーわり」


美嘉が呼んだ京平という人は…私にとって、すごく眩しい人だった。


「遅刻だよー?京平!」

「またバイトか?」

「まぁ、そんなとこ」


クールに笑う彼に、ずっと瞳を奪われっぱなしな私。


「あれ…キミ誰?」

「あっ…」


いきなり彼の視線が私に向いてきて、身体が石になったように固まった。

ど、どうしよう…
何か言わなくちゃ…!


「あぁ、この子はひかりちゃん。
美嘉の親友で、いつも練習見にきてくれてる子だ」

「へぇ…」

「はっ、はじめまして!
立花ひかりですっ!」


シーン……

おもいっきり頭を下げている私にみんな引いたのかな…

少し涙目になりながら頭を上げないでいたら、


「よいしょっと…
ひかりちゃん…でいいんか?」

「へ…?」


少し顔を上げると、京平さんはしゃがんで私の目の前にいた。


「わわわっ!」


ビックリして少し引いてしまった。


「そんなにビックリしなくてもいいのに」


優しい笑顔で笑う京平さん。
すごく胸がドキドキした。


「京平はアタシ達が通ってる高校の先輩なんだよ?」

「え!?」


京平さんを見ると、そうみたいだなと頭をかきながら言った。

こんなカッコいい人がいるなら気づくはずなのに…!


「あぁ、でも京平ほとんど学校行ってないらしいからさ」


あ、そういうことか…


「そうなんですね」

「あぁ。
仕事のが大事だから、単位はもう三年になってすぐ取っちまった」

「えぇ!?」


す、すごい…!
それに三年生なんだね…


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