俺がイイんだろ?

-京平side-


「……はぁ」


ひかりのアパートを出てすぐ、俺の身体からは驚くほど思いため息が出た。


「嘘だって言ってくれ…ひかり」


未だにひかりがてんを好きだということが信じれない。
てんがひかりを好きだということも。
ほんとは好きじゃないかもしれない。
でも…ひかりの真剣な目に嘘はない。


「…とんだライバルだよ…」


歩きながら見つけた、近くにある公園のベンチに力なく座る。


「リリクロを越える…か」


よく考えてみればライバルだ。
だけど全然嫌じゃない。
リリクロを越えて…俺をさらってほしい。
そんな最低なことまで考える始末。


「ひかりから離れなきゃいけねぇんだな…やっぱ」


ひかりだってきっとそう思ってるはずだ。
ひかりの夢も応援したいし、邪魔なんてしたくない。


「だけど…」


もうひかりに触れられない気がして、たまらなく寂しくなる。
付き合ってもいないのに、愛が膨れ上がる。
胸が苦しくてたまらない。


「やべぇ…痛ぇよ…」


こんなに人を好きになったのは初めてだ。
最初はひかりの声に惚れた。
だけどだんだん…ひかり自身を好きになった。


「いろんな女と付き合っても…ここまで俺から好きになったことなんてねぇ」


ひかり…
愛してる…

届かない思いを胸にしまいこんだ。

今は…ひかりを求めちゃいけない。

あんなに好きな音楽が、こんなに邪魔だと思ったのは初めてだ。
もしかしたら、ひかりをボーカルに誘わなければこんなことにならなかったかもしれない。


「いや…
でも俺は何も言わないで東京に行って…結局同じく最低なことに変わりはない」


ひかりは俺に愛想つかしたのか…

そんなことを1人で考えていた時だった。


ピリリリ


携帯が鳴る。

こんな時に誰だよ…


「はい…」

『きょうか!?』

「てん…!」


相手は、今一番話したくないてんだった。
とても慌てた様子で、いつものてんとは違って冷静じゃなかった。


「どうしたんだよ?」

『ひ…ひかりちゃんが…!』

「ひかりがどうした!?」


倒れたんか!?
救急車で運ばれでもしたんか!?

変な焦りが俺を襲う。


『…俺達とバンド組んでくれるとよ』

「は……」


どういうことだよ…


『何固まってんだお前』


いや…
だってよ…


「てんが焦ってるなんて滅多にねぇから…
ひかりに何かあったんじゃねぇかって…」

『阿呆、んなわけあるか。
まぁ…さっき電話した時に元気なさそうだったから、大方お前と何かあったんだろ』

「……」


相変わらず鋭い。
イライラするくらい。


『お前は…こんなにひかりちゃんが好きなのに諦めるのか?』

「それは……」


何も言えない。
諦めたくもない。
だけど、頭の中ではわかっていた。
てんに任せた方がひかりは幸せになれるんじゃねぇかって。


『お前がそんな調子なら…ひかりちゃんは俺が貰う』

「っ……」


嫌だ。
そんなの俺はぜってぇ嫌だ。


『それでいいのか?』

「……」


嫌だ…けど。
俺が守るなんて言えねぇし、側にもいてやれない。
だったらやっぱり…








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