俺がイイんだろ?


「…あぁ、貰えよ」

『きょう…本気か』

「あぁ…本気だよ」


こうするしかできねぇんだよ…俺には。
ひかりがどうしたら幸せになってくれるかなんて考えられない。


「前にも言ったけど…ひかりとは付き合ってねぇから、ひかりは俺のもんじゃない」

『きょう…』


思ってもいないセリフが出る。


「つーか、貰うってなんだよ。
勝手にしてくれ。
俺には関係ねぇ」

『お前…』

「それに俺はひかりのことなんてもう好きじゃねぇんだ」


違う…好きだ。


「もう新しい女もいるしな。
ひかりにはライバルっつーことで、これからは敵だから会わねぇって言ってきたんだ」

『……』


今度はてんが黙った。
自分でもびっくりするほど嘘がポンポン出る。
俺はいつの間にか、こんなにすぐ嘘が出るくらい汚れていた。


『そうかよ…
じゃあ遠慮なく行かして貰う』

「あぁ…勝手にしろ」

『あぁ、勝手にする』


ピッ


俺はすぐ電話を切った。

ムシャクシャする。
モヤモヤする。
イライラする。


「…クソっ!」


やりきれない気持ちをどこに向けていいか分からない。
そんな時。


ピリリリ


また携帯が鳴る。

今度は誰だよ…ったく!

イライラしながら電話に出た。


「誰だよ!」

『うわぁ怖い!
龍汰ぁ!わたしいきなり怒られたんだけど!』

「は?」


梨華…?

携帯のディスプレイを見ると、龍からの電話。
だけど話しているのは梨華。


『あぁ、わりぃ京平!
梨華が勝手に…』

『勝手にって何よ!
わたし気きかせたんだから!』

「うるせぇよ梨華…」


梨華の声がキンキンと俺の耳に響く。


『とりあえず京平!
早くスタジオ来い!』

「は?
なんでだよ」

『何言ってんだお前。
今日ライブだろうが』

「……え」


時計を見ると、午後の3時。
ライブは7時から。
そういえば3時にスタジオでリハする予定だったことを思い出した。


「やっべぇ!」

『どうしたんだ京平、らしくねーぞ。
お前がリハに遅れるなんて一回も無かったってのに』

「今すぐ行く!」


電話を切って、走ってタクシーを拾った。

そうだ…俺にはバンドがある。
俺は何もかも捨てる覚悟で上京してプロになったんだ。
それを忘れていた。


「…頑張るよ、俺。
待ってろひかり…もっと上に昇ってお前を虜にしてやる」


結局諦められない。

今はてんのもんでもいい…
逆に安心かもしれねぇしな。

相変わらず最低だと自分を笑いながら、スタジオへ向かった。









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