俺がイイんだろ?

-ひかりside-


「はぁ…」


白い息が私の目の前を包む。


「そろそろかな…」


駅のホームで電車を待つ。
私は今日…上京する。
意味はない。
ただ…


「京平さんのいない場所なんて…私が歌う場所じゃないよ」


京平さんがいた頃の記憶を思い出す。
思い出に浸っていた時…電車の音が近づいてきた。


「もう行かなくちゃ…」


今になって美嘉や天馬さん、コウに何も言わないで来たのを後悔していた。


「いや…言わないで正解だよ」


京平さんがいなくなって二年。
私は高校を卒業して18歳になった。
京平さんはハタチちょうど。
東京に京平さんがいる保証はない…
だけど、こんな田舎じゃ何もわからないから、大都会へ探しに行く。


「…よし」


電車が私の前で止まる。
プシュッと音をたてて扉が開いた。
私はちょっとした荷物を詰めたキャリーケースを引きずって中へ入ろうと…した時だった。


「はぁ…はぁ…
ひかりちゃん!」

「!?」


後ろから私の名前を叫ぶ声が聞こえて振り替えると、息を切らした天馬さんがいた。


「て、天馬さん!?」

「水くせぇじゃねぇか。
挨拶もなしか?」


少し笑う天馬さん。
私はなんでか涙が出てきた。


「どうして…」

「阿呆。
伊達に何年もひかりちゃんを見てきたわけじゃねんだ。
ひかりちゃんが考えてることぐらいわかる」


そう天馬さんが言った瞬間、涙が一気に出た。
天馬さんはゆっくり近づいて…私の頭に手をポンと置いた。


「泣くなよ」

「うっ…ひっく…」


いつもの天馬さんの温かい手。
さらに涙が溢れる。


「ひかりちゃん…
きょうのこと、探しに行くのか?」

「へっ…」


京平さんを探しに行くなんて私一言も…


「言っただろ?
ひかりちゃんの考えてることぐらいわかるって」


優しく微笑む天馬さん。
きっと美嘉とコウには言わないでおいてくれてるんだ。
二人に言ったらすごく心配する…それを天馬さんはわかってるから。


「ひかりちゃん…
東京行ったって、確実にきょうがいるわけじゃねんだぞ?」

「わかってます…」

「なんで情報もないのに東京に行くんだ…」


さっきの表情とは違って、眉間にシワを寄せる天馬さん。


「ごめんなさい…」

「俺はすごく心配なんだよ、ひかりちゃんが…」

「どうしてそこまで私を心配してくれて、ここまで来てくれたんですか…?」


どうして…
どうしてなの…?


「……」


黙り込む天馬さん。


「…あっ、そろそろ出発なので…」


そう言って電車に乗り込んだ時、天馬さんに腕を掴まれた。


「天馬さん…?」


言って…


「……」


行かないでって言ってよ…


「…ひかりちゃん」


お願いだから言って…!


「俺も東京に行くから」

「へ…?」


プーーーーッ


出発の音が鳴ったと同時に扉が閉まった。
扉の向こうにいる天馬さんの表情は…とても素敵な笑顔だった。





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