代償
殺そうなんて。
もう、思わない。

本当に。
大嫌いで。
憎くて。
死ぬほど、恨んで、怨んで。
殺したくて。
手を、首に巻いたこともあった。

私から両親を奪って。
当の本人に好きに遊ばれて。
嫌だった。
舌を噛み千切ろうとした。
でも。
生きてる。
今。
こうして。

どこか。
理性が働いていたんだ。
一線を越えるなと。
越えたのは。

昨日の夜。
中に刻まれた。
何度も、深く。

「………文香」
「………何?」
「………バカ」
「………何それ」
首に巻いた腕を、背中に回した。
広い背中。
そして、上時を見上げる。
本当、綺麗な顔してる。
羨ましいなぁ。

「………文香、お前、前橋組に戻らないか」
「………え………?」
「戻る気、あるか」
「………前橋組に………?」
「ああ」
戻りたい。
上時に言われて思った。
前橋組に戻りたい。
下時組も、楽しい。

けど。


「………戻り、たく………ない」
ごめんなさい。

戻りたい、戻りたいの!
でも………。
許されないでしょ?
………私。

前橋組に戻りたい。

「………そう、か」
「………」
「………バカ野郎」
涙が溢れた。
何でだろ。
戻りたいのに。
戻りたくないって。
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