代償




「帰るのか」
服を着て、教科書を持つ。
上時が私に問う。
「うん」
「………そうか」
「上時は?」
「一眠りしてから仕事に行く」
「無理しないでね」
「させられるんだよ」
面倒くさそうに、メガネを外す。
「上時ってさ、メガネ、似合うよね」
「邪魔くさいだけだぞ。仕事はコンタクトだが」
「私はメガネのほうが好きだよ」
「まあ、どっちでもいい。視力は落とさないほうがいいぞ」
「はーい」

まだ痛む身体。
感触も、残ってて。
「今日はあまり無理するなよ、文香」
「うん」
「ごめんな。相当、無理させた」
「気にしないで。大丈夫だから」
どこか、罰が悪そうな顔をして。

何、やってるんだろ。

「気持ちよかったし。ちょっと痛いけど、すぐ痛くなくなるから」
「バカかお前」
「バカだよ」
呆れた顔して。
………あれ?

表情が、多くなった?
前に比べて。

何か。
不思議。

「女の人がさ、上時にオーダー入れる理由、何となく分かった」
「………」
驚いた顔をして。
「ははっ………お前みたいな高校生でも分かるのか?」
笑った。
「うん。普通の高校生じゃ分からないけど。色々見れば、分かるよ」
「同棲………っぽかったからな」

笑う顔。
怒る顔。
眠そうな顔。
総長の顔。

色々見た。
見たから。

分かるよ。
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