代償
『ま。どーでもいっか』
じゃあね。

東さんは、オーダーが入ったらしい。
そんな声が聞こえ、東さんの声が遠くなった。
まだ、電話を切ってない。
上時に放った音がした。

「………上時」
応えないと思った。
応えた。
『───何だ』
「………大丈夫?」
『───ああ』
何か言いたげな感じ。
聞かないから。
何も。

『───ごめんな。ただのビビりで』
「………ビビりじゃないから」
『ビビりだ。臆病な』
「………」
何でそんな穏やかに話すの?
ビビりらしい声とか、知らないわけ?
臆病なら、臆病らしい声とか、知らないわけ?
何でそんなさっぱりと話すの?

───大丈夫?
「───上時」
『───』
「───バカ」
『何だソレ』
笑った。
………。
よかったかな。
笑ってくれて。
空笑いでも、いいから。
空元気でも、いいから。
弱った姿なんて、見たくないから。

強いままで。
いてほしいから。
死んで欲しくないから。
生きていて欲しいから。
笑って欲しいから。

『………冬音』
「………」
『………ごめんな』

………名字なの?
呼ぶのは。
………気持ち悪いんだけど。
嫌、なんだけど。
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