代償

「………バーカ」
「………んぇ………」
何で？
喧嘩の時、笑うの？
母音のみで構成される言葉。
途切れ途切れで聞き取りにくいのに。
上時は、理解する。
真っ直ぐに見つめられる。
………何で、
「………喧嘩の時、笑うの………か」
そうだよ。
何で？
おかしいよ。
「………昔な、前橋組、弱かったんだ。余裕を持って喧嘩できないほど」
………余裕って。
「それで、俺が総長になって、全員に喧嘩教えて。余裕のある奴しか笑わない」
………ユートさんとキャーラ？
「大体な。ユートとキャーラは笑うな。お前ら弱すぎだって、証明するためにな」
………つまり、
「元凶は俺だな。恨むなら、恨め」
………上時なんだね。
総長だね、やっぱり。
「大丈夫。怖がる必要ない」
………うん。
「………いい子。すぐ理解できて」
頭を撫でられる。
暖かいし、嬉しいし………。

ぁぁ、何で、こんな。
ソファーに押し倒されて、頭を撫でられて。
………敵わないなぁ。
………上時、私、何かね。
「………うぇ………っ………！」
とき。
名前も呼べないのに。
「………焦るな。ゆっくり話せ」
「………」
………て。

「………………成る程な」
理解、したの？
………本当？
本当に、理解できたの？
………ヤバい。

………安心したら、睡魔に襲われる。
………ねぇ、

「………文香？」
このままでいて………。
お願い、だから。
離れないで。
朝まで、このままで、いて。
どこにも、行かないで。
行かないように………
「………！」
上時が驚く。
背中に手を回した。

「………バカ」
バカでいい。
何でもいいから。

「お前………可愛いな」