代償
………何で、そんな顔するの?
踏み込んじゃ、ダメなの?

そりゃ、私は一線を越えたら、ダメだって、知ってる。

両親を殺した男の過去に踏みいるなんて。
弱味を掴みたいなんて。

そう思えば。
何でそんな顔するの?
まるで、私が悪いみたいに。

「………得、は、しないぞ。知ったところで」
………得はしない。
弱味を握れば、ここから、出て行けると思ったのに。


毎朝、ご飯作るけど。
愛情なんてない。
コーヒーも。
さっさと、出ていきたい。
高校も。
卒業して。

この生活。
慣れてるけど。
壁が阻む。
所詮、うわべの居候生活。
歳の離れた男と。
頭が少しイカれた男と。
ただの高校生。
頭のイカれた男に両親を殺された高校生。
普通なら、ありえない。
ありえたら、この世界はイカれた証拠。

そこまで。
まだイカれてない。
はず。

イカれたのは。

私と、居候先の男だけ。
普通じゃない。
こんな関係。

口が裂けても。
普通だって、言わせない。
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