代償
「家出!?」
マスターの店に、ユートとキャーラを呼ぶ。
マスターもいる。
………キャーラ。
「口にチョコ付けて言うな。取れ」
「上時総長取って」
ユートに一蹴される。

「でもなぁ………こんな時に」
カウンターにコーヒーのカップを置く。
「盾にしたら?どうすんだ」
「それが問題なんだ。俺がゾーンに陥ったらって」
「あー、あれね。総長頭っから血ぃ被るから」
「お休みシーツ作って!」
マスターに殴られる。

「………文香ちゃんまで、殺すって言わないよな」
「………殺しそうだ。一殴りでな」
「………怖い」
「あーあ。マスター、パフェー!!」
殴る。

「脅迫状でも、送られてくるだろ。身代金なりなんなり。或いは、前橋組の地位」
「あり得る。上城を倒して、奴等が総長って名乗るんだろ」
「………嫌だ。総長は上時総長じゃない
と」
「それ、同感。上時総長じゃないと、ついていかない」
珍しく、何もしない。
「………上時総長」
「………俺、また、」

「そんなわけないだろ、上城。気にし過ぎだ。総長だろ」
「………ああ」

………身体中に、重石を付けられているようだ………。

5年前。
下時組に。
前橋組から、人質がとられて。


見捨てた。
そいつは、今、どこにいるか、分からない。
生きているのかも………。

『上時総長………総長ーーーー!!』

………頭の奥に響いている。
まだ。
………5年も。
ずっと。

16年………前橋組の総長をしてきた。
20歳のころから。

………あれほど、残酷なこと、初めてした。
仲間を見捨てたなんて。
人を殺すのは、慣れているのに。

………なんで。
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