後の祭り、祭りのあと
「ははっ、何だー。ちゃんと踊れるじゃん」
実際、確かに雄大は踊れていた。あの授業のときの踊りなんて嘘だったみたいに。
練習のときは雄大と踊る前に授業が終わってしまったからこうやって一緒に踊ることはなかったけれど、初めて踊った今でもちゃんとわかる。
ぎこちなさなんて全然ない。むしろ授業のときに一緒に踊った男子よりも、上手いとさえ思えてしまうから不思議だ。
……まさかあれ、本当にわざとだった?
「あんた、練習でもしたの?」
「いや、してねーよ」
「……じゃあ、なんで、」
片手だけ繋いだ状態で、くるりと回るターン。
ちょうど回り終えたところで、言葉の続きは喉の奥に引っ込んだ。
キュッと指先を、強く掴まれたせいで。
「さあ? 美紗だから、上手く踊れるんじゃね?」
言わせてもらえずに飲み込んだ言葉。それを知り尽くしているような言い方だった。
『美紗だから』
まるでそこだけが切り取られたみたいに、何度も耳の中でこだまする。聞き慣れた自分の名前なのに、しつこいぐらいにその響きが焼きついた。
そのことに戸惑っているあたしに気付いているのかよくわからないけど、目の前にいるやつは何故か得意気に笑っていた。
やめてよ、馬鹿みたい。あたしも雄大も、きっと大馬鹿者なんだ。
……あたし達の関係に、きっと特別なものなんて存在していない。
高校の3年間、クラスが一緒の腐れ縁。ただの友達。
でも、この友達という関係が一番厄介だ。女子と男子。異性間の友情が成立するのかってよく論議にもなるけど、あたしは成立すると思っていた。
少なくとも雄大と出会って間もない頃に、それは成立していたし。
女子の友達とは違う、馬鹿みたいにふざけ合える関係。
おしゃれとか、恋の話とか。ねちっこい嫉妬とか。女子のそういう面倒くさいものをすべて取っ払ったような、清々しい関係だった。
くだらないことではしゃいで、しょうもないことに本気で笑い合えるところ。
そういう変に安心感を得られる、とても心地良い関係だと思っていた。