後の祭り、祭りのあと



「美紗っ!!」


 雄大の焦った声と、身体が階段にぶつかって響く鉄鋼の音。
 それらが右耳から左耳へ抜けていく間に繋いでいた指先が離れ、雄大の手があたしの手首を握ると同時にお腹に腕を回して引き寄せる。

 その拍子に重力に任せて傾いていた身体が引っ張り上げられて、気が付くとあたしの身体は雄大に背後から抱き締められる体勢に。

 そしてそのままドンッと勢いよく、雄大が尻餅をついた。
 その拍子にハラリと、雄大の頭に巻かれていた白いタオルが段差の下に落ちていく。


「……っ!」


 身体に来る衝撃は少なかったというよりも、ほとんどなかったという方が正しい。雄大に支えられていたおかげだ。
 むしろ派手な音を立てて階段にお尻から着地した雄大の方が、きっと衝撃が強くて痛いはず。


「……あっぶねぇ。間一髪だったなー。美紗、怪我してないか?」


 でも雄大は声色にそれを宿すことなく、むしろあたしの心配をしている。

 ……あぁ、こんな狭い場所でなんか踊らなければ良かった。

 本気であたしを気遣うその優しさに、ギュッと胸が締め付けられた。


「だい、じょうぶ……」

「そっか……良かった」


 あたしの声よりもか細い声が耳の後ろをくすぐる。いつもとは違う角度で聞こえる雄大の声に、平常心を保てなくなりそうだ。

 こんなの、心臓がおかしくなる……!
 そうなる前にと思って、浮いていた足を階段に置いて立ち上がろうとする。

 でも、お腹に回っていた雄大の手がそれを許してくれなかった。
 動こうとした瞬間に、グッと力を込めて雄大のもとへ身体を引き戻される。むしろさっきよりも隙間がないくらい身体が密着して、もう片方の雄大の腕はあたしの肩を包むように回されていた。

 ……なんで……?

 思考がその疑問に辿り着くまでに数秒が過ぎた。あたし達の背後にあるグラウンドでは相変わらず垢抜けた音楽が鳴り続いている。どうやら2回目に突入したらしい。

 さっきまでの静けさはもう、どこにも存在していなかった。



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