後の祭り、祭りのあと
「逃げんなよ、美紗」
少し怒りを含んでいるのに甘さを漂わせる声に、びくりと身体が震えた。
逃げる……。一体、何から?
別にあたしは逃げているわけじゃない。逃げようとしたわけでもない。そう思うのに、雄大の言葉を否定することが出来なかった。
だから代わりに、平然を装うことに集中する。
「……何言ってんの? あたし別に、逃げてなんかないじゃん」
クスッと無理矢理に口角を上げて、ふざけ合うときの口調で言った。そうすれば雄大も笑い飛ばしてくれると期待して。だから首を後ろに向けた。
でも振り返ってから、それが無理だったと知る。薄暗い中で光を宿った雄大の真剣な瞳が、あたしを捕らえて離さない。笑ってくれる様子なんて1ミリもないことを、ピクリとも動かない雄大の眉が語っていた。
あれほどこの瞳が自分だけに向いていれば良いと願っていたのに、今はただ苦しさだけが押し寄せてくる。あたしの心の内まで読んでしまいそうなその眼光に恐怖さえ感じた。
先に目を逸らしたのは、紛れもなくあたしの方だ。
「何で、俺のこと避けてた?」
上から降ってくる言葉に、また身体が震える。気付かれていたことに驚いて、ゆっくりとだけど目線を合わせた。
「今日、午後からずっと俺のこと避けてたよな? 何で? 俺、美紗に何かした?」
そこでやっと雄大の瞳が揺らぐ。しょんぼりと怯えた子犬みたいなその表情に、あたしは弱かった。
雄大が悪いわけじゃない。その言葉を言う代わりに、力なく首を横に振る。
でも雄大の表情は暗いままだ。