後の祭り、祭りのあと



「なーにしてんの、美紗(ミサ)」


 非常階段の3階の踊り場。3年生の教室が並ぶ廊下の先から直結の場所。

 そこで手すりに肘を置いて、グラウンドを見ていた。

 一人きり。人気のない場所。だからいきなり名前を呼ばれて、心臓がいつもに増して跳ねた。
 そう。いつもに増して、ね。


「別にー。ただの集団行動の観察」


 ゆっくりと振り返って、眼下を指差して笑う。

 わちゃわちゃとグラウンドに集合し出した人間の塊。
 炎を取り囲む団子は、いつの間にか大きくなっていた。


「おー、ほんとだ。すげー集まってる」


 雄大(ユウダイ)が、笑いながらあたしの隣に並ぶ。その横顔が、下の炎で微かに照らされていた。

 薄暗い非常階段で見る雄大の横顔には汗と疲れが見えて、いつもと少し違う。
 その違う表情でキャンプファイヤーを見る楽しそうな姿に、胸がキュッと音を立てた。


「……っていうか、あんたこそ何してんの?」


 もうとっくに、下に行っていると思ってた。だって非常階段に続く廊下にも、人影はない。みんなも、クラスメートも。キャンプファイヤーのもとに行っているのだろう。

 後夜祭は、もうすぐ始まる。


「んー。美紗に打ち上げ行くか聞きにきた」

「打ち上げ……」

「後夜祭が終わったら、駅前の焼肉屋で。俺一応幹事だから、出欠取らねぇと。で、美紗は行く?」


 あんたが行くなら、行くよ。
 ……そう思ったけど、そのまま口にすることは出来なかった。

 だから唇を一度結んでから、「行こうかなぁ」と呟いた。



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