後の祭り、祭りのあと
「せっかくだし、俺と踊る?」
「あんたさっき、踊れないって言ってたじゃん」
「……あぁ。でも、美紗となら踊れる気がする」
ぞわぞわと、心地の良い緊張感が肌の上を走った。
優しい笑みに、気持ちがとろけていく。
「美紗は、俺と踊るの嫌?」
首を傾げて、あたしの顔を覗き込んでくる。
……反則だ、こんなの。
「嫌じゃ、ない」
断るわけないこと。断れないこと。わかっててやってるなら、あんたはずるい。
『はい、音楽流しまーす!』
それを合図に、大きな手を差し出される。関節のラインが綺麗な、男らしい手。
震えていることを悟られないように必死に気持ちを保って、それに自分の手を重ねた。
ドキンドキンとうるさい波の音が伝わってしまいそうで、余計に音が大きくなる。
グラウンドに音楽の前奏が流れるのと同時に手を引かれ、エスコートされるみたいにダンスの体勢になった。
オクラホマミキサーの、軽快なリズムが流れ出す。
右、右、左、左……。
足をリズムに合わせて二人で動く。狭い踊り場では動きにくいので、自然と小股になった。
指先だけで繋いだ両の手。熱が伝わっているのかどうかもわからない曖昧なぬくもりが、そこを通じてお互いに届く。
身体を動かすたびに擦れるようにして触れる腕や背中に、どうしようもないくらいドキドキした。
そのことに気付かれたくなくて、無理矢理にだけど乾いた笑い声を小さく漏らした。