ゆず図書館。*短編集*
1*秘密 ~ツンツンなリーマン~
……今日も部長はイライラしていた。
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後1時間で定時になるという頃、ドアをバン!と開けて、営業部の部長である長野さんがリーダー会議から戻ってきた。
「くそっ、あのクソ社長!」
手帳をバンッとデスクに置いて椅子にドスンと座った部長は、イライラとした様子でそう呟いた。
……“呟いた”と言っても、その声は部長のデスクの近くにいる私やその周りの人たちには丸聞こえだ。
社長を「クソ社長」って呼ぶのは、さすがにマズイでしょ……と思うけど、私は聞かなかったふりをする。
それはみんなも同じで、部長の“単なる独り言”に対して指摘する人物は誰一人いない。
指摘しようものならどうなるか、想像するだけでも恐ろしいとわかっているからだ。
会議でまた社長と喧嘩でもしたのだろう、と私たちはいつものようにみんなで顔を見合わせて、こっそりと苦笑した。
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