ゆず図書館。*短編集*
 

「俺たち、距離を置こうか」

「……え?」


すっかり笑顔が消えてしまった比呂さんに、嫌な予感を現すようにドクンと心臓が鼓動する。

それはいつもの比呂さんに対する甘くてちょっぴり苦しい“ドキドキ”ではなく、重苦しいもの。

……距離を置く、って何?どういう意味?

まさか……別れるってことじゃないよね?

…………いや、そんなわけ、絶対にない。

またからかわれてるだけだよ。きっと!

私はそう自分に言い聞かせ、嫌な予感が当たりませんようにと、恐る恐る比呂さんに訊ねる。

……襲ってくる不安を隠すように、必死に笑顔を浮かべて。


「……ひ、比呂さん?どういうことですか……?また、冗談」

「いや、俺は本気だよ。……意味は言葉の通りだから。暫く距離を置こう」

「……!」


急な話に私は理解できなくて、言葉も出せない。

でも、比呂さんはその理由も説明してくれないまま、ふと私から目を逸らしすっと立ち上がった。


「え、あの……っ!?」


比呂さんは私のことを無表情のまま一瞥し、寝室に消えていってしまう。

……私が一度しか入ったことのない、その部屋に。

ぱたん、と寝室のドアが閉まる音が部屋に響いた。

 
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