ゆず図書館。*短編集*
 

「……」

「……っ」


比呂さんの手がシャツを掴む私の手を包み、ゆっくりと離す。

……私が触れるのも嫌ってこと……?

私の腕が行き場を失ってぶらんと力なく下ろされ、完全に比呂さんと私との間に距離ができた瞬間だった。


「ひゃ……っ!?」


急に視界が暗くなり、私の耳たぶに比呂さんの柔らかくて温かい唇が触れた。

耳に触れられるのが弱い私の身体は、その行為によって一気に熱を持つ。


「っ!!」


反射的に私は比呂さんから距離を取り、触れられた耳に手を当てた。

その慌てっぷりを見てからか、比呂さんは満足そうに笑う。


「な……っ」

「……くくっ。良くできました。」

「へっ?」

「やっぱり距離を置いて正解だった」

「……えっ!?」

「数分で、一気に俺のことで頭がいっぱいになっただろ?」


にっこりと笑う比呂さんに私は気付く。

……暫く、ってもしかして……!

わざと!?


「っ!ひ、比呂さんっ!?またからかったんですかっ?酷いです!」

「何で?好きな女の頭の中を占めたいと思うのは当然のことだろ?あんな風に言えば、そうできると思ったからしただけだし」


何それ何それ何それっ!?

結局、私を振り回しただけでしょ!?

いつもとは違うやり方で!

 
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