ゆず図書館。*短編集*
「っ、比呂さんだけ余裕でズルい……っ」
悔しくなって目頭が熱くなったのを感じ、私は比呂さんに背中を向けた。
本当に怖かったのに……!
比呂さんを失うかと思って……本当にどうしようかと思ったのに……!
からかわれて泣くなんてバカみたいだし、子どもみたいだし、絶対に泣いたりしないけど!
比呂さんも少しくらい私のことで慌てればいいんだ!
もう知らない!
私は無言のまま、比呂さんに背を向ける。
少しの沈黙の後、
「……それは聞き捨てならないな」
「っ!?」
比呂さんのいつもより低い声が聞こえてきたと思えば、後ろからするりと比呂さんの腕が伸びてきて、抱き締められた。
首とお腹に回された腕。
そしてその手は私の耳を弄ぶように触れる。
もう片方の耳には、比呂さんの吐息と唇の感触。
ぞくぞくとした感覚に襲われて、油断していると今にも身体から力が抜けそうだ。
……でもきっとそうなっても、比呂さんが支えてくれるだろうという安心感はどこかに感じていた。