ゆず図書館。*短編集*
――パソコンに向かう私の視界の端に写るのは、むすっとした表情でパソコンに向かって、カタカタと高速タイピングをする部長。
イラついているせいでEnterを押す力が強く、そのタンッという音がフロア内に響く。
これはイライラしている時の部長の癖。
いつかキーボードが壊れるんじゃないかと思いながらも、今ではこの音にすっかり慣れてしまった。
今日は就業時間内には機嫌直りそうにないな……。
はぁ、と私は小さく嘆息した。
営業事務として私がこの部署に配属されたのは、入社してすぐのことだった。
5年経った今ではそんなことないけど、ここに来た当初は、部長のことが怖くて仕方がなかった。(この頃、部長は「部長」ではなく、営業1課のチームリーダーだったんだけど。)
部長は優しそうな甘めの顔をしていながら、その性格はかなりキツく、ミスをすれば雷を落としてくるのが基本。
それはもうめちゃくちゃ怖くて、出社拒否したいと思うくらいだった。
だけど、部長のことを毎日見ていて、1ヶ月くらい経った頃にわかってきたんだ。
部長はただ真っ直ぐと真剣に、仕事に向かっているだけなのだと。
部長は「部長」となった今でもバリバリの営業マンで、営業実績は社内でもトップで、面倒見が良くて仕事もできる。
雷を落とすとは言っても、決して理不尽なことで怒るわけではなく、事前に防げるようなミスをしたような時だけだ。
だから、頼れる上司としての信用は厚く、社長からも一目置かれているからこそ、リーダー会議の時に社長と真正面からぶつかることができるんだ。
ただ、部長のこんな風にすぐイライラしてしまうところや、言葉にトゲがあるところは直して欲しいところだと、みんな口を揃えて言う。(もちろん、こんなことは本人には絶対に言えないけど。)
イライラのレベルが高まれば高まるほど、言葉のトゲも多くなっていくっていうのは、かなりたちが悪いし。
それが仕事だけのことならまだ救いようもあるんだけど、普段でもオブラートに包むことなくトゲのあるキツい言葉を吐くから、部署内には一部を除き、自分から部長に近付こうとする人はあまりいないのが現状のようだ。