ゆず図書館。*短編集*
ほくほくしながら、私は口を開く。
「そういえばさ、この前の“カラカラ”観た?」
「観たけど」
「胸キュンしなかった!?」
「は? そんな要素、どこにあったよ?」
「ミドリがアカを壁ドンしてたじゃん! あれ、超萌えた~!」
“colorful”は音楽アーティストという顔だけではなく、バラエティもこなしてしまうおもしろ集団でもある。
その中のふたりが“カラカラ”というテレビ番組内でふざけて壁ドンコントをしていたのだ。
ちなみに、ミドリもアカも、男。
その映像は日本中の全てのカラファンを萌えさせたと思う。
イケメンふたりが顔を近付けて並んでいるのを思い出しただけで、私の顔はにまにまと緩む。
「いや、意味わかんねぇ。男同士の壁ドンで何で萌えるんだよ。気持ち悪ぃ」
「女子ってそういうものなの! もうね、思い出しただけでもヤバい!」
「へぇ。ってことは、三瀬もそうされたい願望があるわけ?」
「ううん。私はそういうの興味ないもん。あっ、でも、喜多村さんにされたらキュンしちゃうかも~」
「ふーん」
そんなことを言いながら、頭の中に浮かぶのは崎本に壁ドンされている光景と、崎本の顔。
……いや、ヤバいね。
世の中の女が壁ドンに萌える理由がわかる気がする。
好きな男にされたら、そりゃ鼻血吹くわ。
ま、そんなこと、ありえないけどね。
唐揚げをあーんと頬張りながらふと目線を上げると、崎本と目線がバチっとぶつかった。
私の少し速度が上昇していた心臓の鼓動がさらにドキン!と跳ねた。
「はっ、デケェ口だな」
「むっ、いーひゃん!」
「くっ」
崎本はくすりと笑ってすぐに私から目線をそらし、料理に箸をつけ始めてしまう。
ドキドキしてるのは私だけなんだよなぁ。
崎本とこうやって笑顔で一緒にいられれば友達の立場でも十分だと思う気持ちは嘘ではないけど、やっぱり片想いのままというのはちょっと切ないよなと思う。
でもせっかくの崎本との時間を楽しまねば!と気持ちを切り替え、私は唐揚げをむぐむぐしながら、「あっ、そういえば、この前喜多村さんがさぁ!」と再び会話を始めた。