ゆず図書館。*短編集*
 



「じゃあ良い週末を~」

「……」

「ん? 崎本ー?」

「……」


駅に着き、反対方向に帰るはずの崎本に笑顔を向けて挨拶をしたのに、崎本は黙りこくったままだ。

居酒屋を出てから、崎本の口数が途中から減っている気がしていたけど、気のせいではなかったのだろうか?

どうしたのかな?

もしかして、気分でも悪い?

私は心配になって、崎本のスーツを掴み、顔をひょいっと覗き込んだ。

崎本の目線が私を捕らえるけど、その表情には笑顔はなく、どことなく苦しげだ。


「ねぇ、崎本、どうし」

「……やっぱりもう、無理」

「へ? だ、大丈夫? 気分悪い? まさか、吐きそうとかっ?」

「……あぁ」

「えっ、嘘、大丈夫!? と、トイレ行こ!? もう少し我慢してね! 私がついてるから安心してっ!」


崎本、そんなにお酒飲んでたっけ!?

見てる感じ、そんなに飲んでなかったはずなのに……っ。

普段と様子の違う崎本のことが心配で不安になるけど、私がしっかりしなきゃと必死に気持ちを落ち着かせる。

ととトイレってどこにあったっけ!?


「いや、トイレはいい。こっち来て」

「えっ?」


崎本の手がスーツを掴んでいた私の手を掴み、ぐいっと引く。

私はその力強さに勝てるわけもなく、ただついていくことしかできない。

 
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