ゆず図書館。*短編集*
*
「じゃあ良い週末を~」
「……」
「ん? 崎本ー?」
「……」
駅に着き、反対方向に帰るはずの崎本に笑顔を向けて挨拶をしたのに、崎本は黙りこくったままだ。
居酒屋を出てから、崎本の口数が途中から減っている気がしていたけど、気のせいではなかったのだろうか?
どうしたのかな?
もしかして、気分でも悪い?
私は心配になって、崎本のスーツを掴み、顔をひょいっと覗き込んだ。
崎本の目線が私を捕らえるけど、その表情には笑顔はなく、どことなく苦しげだ。
「ねぇ、崎本、どうし」
「……やっぱりもう、無理」
「へ? だ、大丈夫? 気分悪い? まさか、吐きそうとかっ?」
「……あぁ」
「えっ、嘘、大丈夫!? と、トイレ行こ!? もう少し我慢してね! 私がついてるから安心してっ!」
崎本、そんなにお酒飲んでたっけ!?
見てる感じ、そんなに飲んでなかったはずなのに……っ。
普段と様子の違う崎本のことが心配で不安になるけど、私がしっかりしなきゃと必死に気持ちを落ち着かせる。
ととトイレってどこにあったっけ!?
「いや、トイレはいい。こっち来て」
「えっ?」
崎本の手がスーツを掴んでいた私の手を掴み、ぐいっと引く。
私はその力強さに勝てるわけもなく、ただついていくことしかできない。