ゆず図書館。*短編集*
「三瀬」
「はいっ?」
「……好きだ」
「……。」
……好き? 今、好きって言った?
真剣な崎本の表情を、私はぽかんと見つめる。
「……す、好きって、何が?」
「は? 三瀬に決まってんだろ。俺はお前のことが好きだっつったの」
「……さ、崎本……そんなに酔ってるの……?」
私のことが好きだなんて言葉が崎本から出てくるなんて、相当酔っている証拠だ。
酔っ払っていろいろやらかしてしまうのは、お決まりのオチのパターンだから。
今の言葉だって、そうに決まってる。
「酔うわけねぇだろ。好きな女と一緒にいれるのに、酔って記憶なくしてたまるかっての」
……酔ってない?
いやいや、酔っぱらいの「酔ってない」は信用できない。
でも……。
「……じゃ、じゃあ、熱でも、ある?」
きっとこれだ。
「そんなの、生まれたときからあるわ。ボケ」
「あ、そっか。子ども体温、だっけ……」
前に崎本が「俺って平熱が高いんだよね」と言っていたことを思い出す。
それに対して私が「子ども体温だ!」と笑い飛ばすと崎本は不機嫌そうな顔をして、「ガキ扱いすんな!」とその熱い手で私の頬を両側からむにゅうとつまんできたことは、記憶に新しい。
あの時、崎本に触れられたことに心臓がドキドキしたんだよね……って、今はそんなことは関係ない。
どうも私の思考は別の方向に持っていこうとしている。
……だって、崎本が私のことを好きだなんて、そんなこと、信じられるわけがないじゃない。
普段の崎本は私以外の女の子にはやさしく笑いかけるのに、私にはすぐこんなふうに不機嫌そうな表情を見せたり、口は悪いし好き勝手なことばかりを言ってくるのだから。