ゆず図書館。*短編集*
 

「はぁ。また子ども呼ばわりかよ。……あ、じゃあ、確かめてみろよ」

「へ?」

「この36度9分が子ども体温かどうか」

「な、何それ、む……、っ!?」


崎本の唇がぶつかるように私に触れる。

私の平熱は、35度7分の低体温。

1度以上ある体温差のせいか、私の唇を食んでくる崎本の唇は熱く感じる。

この熱は子どものものなんかじゃない。

オトナのキスだ。


「ん……っ」


どうしよう、と戸惑うのに、伝わってくる崎本の熱が熱くてすごく気持ち良くて、もっとその熱が欲しくて、私はそのまま酔いしれるように目を閉じてしまっていた。

ふっと私の唇から熱が去り、冷たい空気にさらされたのを感じてゆっくりと目を開ける。

すると、目の前にあったものは、街の灯りに淡く照らされた、崎本のほんのり赤く染まっている顔。

ほんの一瞬前まで私に触れていた唇が開く。


「喜多村さんに比べたら、俺なんかガキかもしれない」

「!」

「でも初めて会った時からずっと、三瀬のことが好きだったんだ。その気持ちだけは誰にも負けない」

「……」

「三瀬に会った時にいつも俺が飛び跳ねるほど喜んでること、お前知らねぇだろ」


飛び跳ねるほど喜ぶ……?

この崎本が?


「いっつも三瀬は“喜多村さん喜多村さん”ってうるせぇし、三瀬の頭ん中に俺がいないことくらいわかってんだ。それがすっげぇイラッとする。でも……好きなんだよ、お前のことがどうしても」


嘘でしょ?って思った。

でも、私の目に映るのは今まで一度も見たことのない崎本の照れていて真剣な表情。

その眼光は私を魅惑し、捕える。

ほんのり赤く染まった崎本の顔がお酒のせいではないことは、その表情を見れば明らかだった。

崎本の言葉が嘘なんかではないことも。

ほんとに?

崎本が私のことを……?

 
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