ゆず図書館。*短編集*
 




――カチャ

玄関のドアが開く音がして、私はご主人さまを待っていたワンコのように、反射的に玄関の方に顔を出した。

玄関にその姿が見えた瞬間、私の心は嬉しさでいっぱいになって、満面の笑顔を向けた。


「おかえりっ」

「……ただいま」


私のテンションの高い声に対して、返ってきたのは怒っているようにも聞こえるほどのすごく低い声。

その上、その人の表情には笑顔さえ浮かんでいない。

でもそんなことは私にとっては全然問題のないことだ。

ただ、こうやって帰りを迎えることができるだけで十分なんだから。


「……はぁ。今日はほんと疲れた」


そう言いながらリビングに入ってきた彼は、いつもと同じ場所に鞄を置き、ネクタイを緩めながらソファにボフンと座った。

……イケメンスーツ男子。

その人は紛れもなく、さっきまで私を叱っていた人……部長だ。

 
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