ゆず図書館。*短編集*
*
――カチャ
玄関のドアが開く音がして、私はご主人さまを待っていたワンコのように、反射的に玄関の方に顔を出した。
玄関にその姿が見えた瞬間、私の心は嬉しさでいっぱいになって、満面の笑顔を向けた。
「おかえりっ」
「……ただいま」
私のテンションの高い声に対して、返ってきたのは怒っているようにも聞こえるほどのすごく低い声。
その上、その人の表情には笑顔さえ浮かんでいない。
でもそんなことは私にとっては全然問題のないことだ。
ただ、こうやって帰りを迎えることができるだけで十分なんだから。
「……はぁ。今日はほんと疲れた」
そう言いながらリビングに入ってきた彼は、いつもと同じ場所に鞄を置き、ネクタイを緩めながらソファにボフンと座った。
……イケメンスーツ男子。
その人は紛れもなく、さっきまで私を叱っていた人……部長だ。