桜雨〜散りゆく想い〜
 「そうだね――でも、今年の桜は今年しかない。来年はまた来年の桜が咲くの、同じように見えても違うんだ……」


 そう言って香は桜を見上げる。虫喰いのように穴が空いた桜を――


 「後どれくらいもつかな?」


 「この様子ならせいぜい二、三日かな……」


 僕が答えると、香は桜を見上げたまま寂しそうに


 『二、三日かあ……』


 と、僕の言葉を繰り返した。


 その背中は今にも消えてしまいそうにはかなくて、僕は思わず後ろから抱きしめていた。


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