桜雨〜散りゆく想い〜
 眼下に今朝通った桜並木が見えた。結構距離はあるが、鮮やかなピンクの一画が灰色主体の町並みに生える。


 「うん――」


 「どうしてそんなに?」


 僕の問い掛けに、佐倉さんは少し哀しそうに微笑みながら言った。


 「昔々、遠い昔の話し……何歳だったかも覚えてないんだけどね、私は恋をしたの――」


 風が拭いて佐倉さんの短くはないスカートが浮いて、白過ぎる太腿が覗く。


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