桜雨〜散りゆく想い〜
 まだ明るい時間、吹雪ならまだしも桜の花びらの中、人影を見失うなんて事はない。にも関わらず、僕は視界に何も捕らえる事は出来なかった。


 木から落ちる花びらと、既に地面に落ちた花びらで視界は桜色に染まっている。


 他に混じり気の許さない桜色の世界が広がり、僕は一瞬桜以外に周りの景色が無くなったような錯覚に陥った。


 『柏木君?』


 呼ばれて振り返った僕の眼には誰も映らなかった。


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