桜雨〜散りゆく想い〜
 『望君?』


 再び声がして僕は体を反転させる。そこにはやはり桜色の世界だけがあり、誰もいない。


 『ノンちゃん?』


 耳元で囁かれているぐらい近くで聞こえるのに、誰もいない。


 『やっと――』


 その声を合図にしたように、一面の桜は吹き散った。


 元の並木道に戻った景色にはやはり誰もいなくて、声も止んでいた。


 寝ぼけた頭を醒ますように頭を降って、僕は空を見上げる。


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