桜雨〜散りゆく想い〜
 考えて見れば誰にでも思い当たる節があるだろう。


 「一年早く再会していたとして、僕は香ちゃんの側に――」


 そこまで言って僕は口をつぐんだ。


 今言うべき言葉ではない。全てはもう過ぎた日々の事で、仮定の話しは何の意味も持たない。


 「さあ、早く行かないと遅刻しちゃうよ?」


 香は僕の言葉が聞こえなかったようにそう言うと、学校に向かって歩き始めた。


 その背中を見ながら、僕もゆっくりと後をついて行った。


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