掌編小説集

248.ウロボロスを見下して

空狐は均衡を見守り調節する

下界へ降りるは
金色の瞳に銀色の衣を纏った
禁忌の子


何千年もの間
人間と妖怪の狭間に生き
煙たがられてきた


奴の興味を惹いたのは

妖怪と人間の間に産まれた
幼き一人の半妖


人の世に生き
百鬼夜行を率いて
陰陽師が同級生にいる

風変わりな奴



奴等がピンチの時も
決して手は出さない

いや、出せない

善狐である空狐が手を出しては
力の差がありすぎて均衡が崩れてしまう



でも均衡を崩す野狐が現れ
天狐の命に従い野狐を退けた



命に従っただけだが、
奴は礼の言葉を口にした


律儀な奴の表情を見て
空狐も口にした



野狐は退けただけで消滅してはおらん

野狐とは因縁があるであろう
お前がケリを付けろ

我が行動を起こして
礼を言われたのは初めてだ




天狐の命に背き野狐を逃がした
その罪は計り知れない


少なくとも妖力の大半は
差し出さなければならないだろう


でも空狐は構わないと思った


幾年、虚無に過ごした刻


寿命が縮むだけなら
意味を為すなら


奴等の顔が曇らなければ



それでいいと
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