掌編小説集

*299.諦めるのを諦める

俺達が信じられないか

俺はそんなに信用がないか



叫ぶ男に女は悲しく微笑む



新聞社の社会部オカルト担当
そして事件の第一発見者

それが今の女の立場



一方、男は事件記者
事件を追う立場なのに
記事にもせずに女を問い詰める



殺されたのは女の元先輩


そして、女の家族に雇われていた元運転手



十数年前に
惨殺された政治家と妻

その娘と運転手は
戸籍も名前も変えさせられて

それでも息を潜めながら
集めた証拠の数々



しかし黒幕とおぼしき国家権力は
すぐそこに迫っている




女は諦めなければならなかった



男と会社は女と心中する気満々だったのだから
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