掌編小説集

424.モビング~これが明かされる瞬間、この世に私はいないの?いいえ、死人に口無しなんて言わせない~

ウザキャラで通っているこの私が、まさか殺人容疑で仲間から取り調べを受けるなんてね。



私の指紋も付いた遺留品が現場にあったらしいけど、知らないと挑発して後は無視していた。




温厚な仲間さえしびれを切らしかけた時、ポケットから出した右手首を掴まれた。



「やっぱり侮れない・・・。貴方が、味方で良かった。だから、私達の勝ちね。」



倒れる寸前に私が言った言葉と転がった錠剤が物語るのは、事前に策を講じた為の阻止の失敗だった。




意識不明の重体になった私から、上司へ郵送した辞表が届いたみたい。




さあ、託しましたよ。





フーダニット?

(真犯人は分かっていますから)

連れてきてください。






ハウダニット?

(証拠は揃えてありますから)

自由に使ってください。







ホワイダニット?

(結構単純ですから)

怒らないでください。










狙い通りに、仲間が事情聴取に呼んだのは、ある世界での重鎮の息子。




この男こそ、またねと言って私の髪飾りに触れた真の犯人。


子供を殺すと恫喝し両親に殺し合いをさせ、私以外の兄弟も目の前で殺した。


帰り際には通りかかったタクシーの運転手を殺し、逃走する為の手段を確保するという残忍かつ冷静さもみられた。



理由は単純明快で、私に歪んだ愛情を持っていたから。


家族が私を不幸にすると思い込み、その前に守りたかったから邪魔になる家族を抹殺した、って理由。




まあ分析したのは、被害者である私の主治医だけどね。



私が託した証拠を突きつけたら、乗り込んで来たのは親である重鎮だった。



俺を誰だと思っている。というお決まりのセリフも義憤を覚えた仲間には効かない。


膠着状態の中現れた私が仕掛けた罠は、どう見ても釣り合わない冴えない先輩と交際し証拠にキスを迫るというもの。



そしたら、まんまと引っかかった。



誰にも奪われたくないだの、自分だけのものにしたいだの。欲望丸出しで襲いかかってきたから返り討ちにして、重鎮に投げ返してやった。



これでも警察学校を主席で卒業したんだから。

私の周りで発生した事件の揉み消しを探る為に、内勤を希望しバカなふりして色々部署を回っていただけよ。


父親からは頭の良さと、母親からは家庭的な面と、姉からは流行と、兄からは優しさと、妹からは社交性と、弟からは武闘と。


たくさん貰ったから、それを駆使しただけ。




一呼吸ののち、大仰な態度で真犯人が嘲笑った。



天使の声が聞こえるんだとか、自分は壊れているんだから仕方ないとか。



仲間が殴りかかるのを止めて、



「一つ良いことを教えてあげます。」



と私は真犯人に話しかける。



「貴方は壊れてなんかいない、いたって正常です。壊れた人は自分が壊れたなんて言わないし、思いもしないですから。一番知りたいはずの、家族を失った悲しみさえ分からなくなった。だから、私は、貴方の愛に応えることは絶対にありません。それが貴方が私にしたことです。」




自分の手で一矢報いたいと言った主治医を道連れに、取り調べ中に死ぬことで騒ぐであろうマスコミを利用して、全てを明らかにしようと思ったのは、単に犯罪者を取り締まりたかっただけ。



忖度ばかりで是正もままならない上層部を動かすには、これくらいの代償は当然だ。




ウザキャラがフェイクだったので、淡々と話す私が信じられないようで。




不憫に思うよりも君と見る世界を共有出来ないことが悔しいと、先輩が言ったのは、


自分について昔のことで忘れた、と私が答えたからだったに違いない。
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