掌編小説集

443.「ごめん、茶化しすぎた。心配してくれてありがとう。」

事件に巻き込まれた私。




病室で目を覚ました時には、全てを忘れていた。









幼馴染の貴方のことも、




亡くなった両親のことも、




元気づけようと連れ出してくれた先で負ったこの傷のことも、







思い出も、名前も、全部。








傍にいる貴方に戸惑いながら、日々を過ごしていたのだけれど。





ある時、貴方の背に向かって言っていた。





今の私が呼ぶはずの無い貴方の下の名前を。





驚く貴方を尻目に、私は感じていた。





私は貴方が好き。










再び目覚めた時には、思い出していたのだけれど。






事件に関することと記憶を失っていた間の記憶が無かったようで。







普段通りというより、事件に巻き込まれる以前の感じでいた。







それなのに、貴方は私を自分の家に連れてきた。








思い出したし、もちろん家も覚えている。




帰れるのに、心配性ね。




と、いつものように貴方に言ったら。












「心配ぐらいするだろ!」












聞いたこともない大声で、でもすぐに貴方はハッとした表情になって。










隠す様に置いてあったその箱に、私は今までの意味を悟った。
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