掌編小説集

533.細工は流流仕上げを御覧じろ

夢幻泡影のような月明かりを
見上げている貴方に
眠れないのと尋ねてみた

けれど質問の答えは意図的に無視されて
代わりに俺を信じろと抱き締められた

普段の貴方からは到底似つかわしくないほどの
有り体の優しさが込められている感覚がして
うんと一言だけ返した


表面上は敵を討伐する為に集まった
けれど内面は不透明なまま
利害だけが結ぶような関係に
居心地が悪い相関図を思い描き
鈍色の盃に珮を飾って降らせた灰になる


そんな折
思いかけず一人が襲撃を受け脱落した

普段の素行と相まって
貴方は疑いの目を向けられてしまった


興味が無いのか面倒なのか
当の貴方は言い訳すらせずに
知るかよの一言で終わらせてしまった


静謐とは真逆の空気が漂う疑心暗鬼
寝静まった最中に呼び出され
一人思い上がった奴が言う
誰も信じなくていい僕だけを信じてと


奴が笑って私も笑う
含意の異なるそれは
相容れない存在だと
証明しながら執着の
終着を告げるサイン


外堀は自然に溢れベスティアの様に唸る風
内堀は不自然なほどの無言の隙間を埋めた



単なる熱光源でしかない太陽が昇り
エネミーコンベンションが繰り広げる
マスカレードが開演した

バンドル販売の様にシークエンスに沸き
享楽していたパイオニアは

奴ではなく私の家族で
集る様に私に命じてきた

高台から見下ろすのではなく
確実に見下しながら

貴方を亡き者にすれば帰還を許可してやると



天稟をモットーとして語り
滑稽なグローリーを飾り
私にオーバーラップを演じさせた
意図を持って家族の糸を手引きしたのは
無根拠に己を正当化出来るお目出度い
姦しく諳じている奴なんだろうね


頭の中で諦念と憐憫が渦巻く
私は無言で貴方に銃口を向けて
躊躇すること無く放たれた銃弾は
魔術によって転読され奴を貫いた



乖離する惨劇のストーリーを
信じて疑わなかった奴と家族は
混惑し集き足掻けば足掻くほど
酷く浅ましく滑稽で無様な傷口を広げる
恥の上塗りを頭で理解していても
目の前にピクトグラムが転がる
奇妙な光景を拭いきれないのかしら


僕は支配する側に選ばれ神から寿ぎを賜った
支配される側である粗忽なお前らを助け
諸行無常すべて正しく導かなければならない
神が定めた概念以外は神への冒涜でしかないんだ


妬く役が欲しがった訳は
出来る薬を欲しがって
厄が疫を連れてきて益を焼いた

姿態を慕い肢体は死体になって
臣従が真珠を神授し新樹で心中を望む

楽することが大好きで
力で奪えるものは何だって奪い
自分の主張を通す為に他人を傷付ける

人生の歪められた過去の記憶達が
実際に目で見える形に戻っていく感覚に
ロジカルの欠片も無いセオリーは
論いのアイロニーにすらならない



金魚鉢の金魚が鉢の外では生きていられないとしても
それを不幸だと思いもしないように
私が助けられるべき不憫でか弱い存在だと決め付けて
助けるのは自分だけだと無意識に酔っていただけね


助けなんて必要ない
勝手に不幸だなんて決め付けないで欲しいわ


幸せだと自覚しないことには成立しない
客観的な定義なんてすることが出来ない
利己的な要素が強いケミカルでしかない

死ぬことに酷く怯えながらも命の意味を探し
生き続けなければならない人間が造り上げた
浅ましい幻想と未練がましい空想でしかない

積み上げた誇りや尊厳と引き換えにして
身に付けた道徳や倫理観を裏切って
反逆のサーマルを放棄して
シャンクに永遠の忠誠を誓うなんて真っ平御免だわ

すでに関与出来る範疇を越えている
これ以上強制される覚えはないのよ



不協和音のマリアージュの迸りはもう結構
無限回廊の戯言は聞き飽きたわ





野良犬の鳴き声にしては煩すぎですね
クロアに反抗するほどの気力は持ち合わせていませんが
ラメントを受け入れてしまうほど従順でもありませんよ
そちらにだけにしか利益をもたらさない
そのような交渉に応じる気もありません
ウィークポイントを突かれた哀愁漂う臆病者の瞳には
私がクローザーに見えるみたいですね
魔術ぐらい見聞きしていたら出来ますよ
私はこれでも演技派なんですがお忘れですか?
私が人を殺したことが無いとでも思っているんですか?





タイムリーな君子危うきに近寄らず
カンデンツァに虎穴に入らずんば虎子を得ず

メリットがあるから得をしたいから
危険がないから安全だから
そんな不快で深い腐海な理由じゃない


用いた婉曲ブラフが巣食い
マスキュリンに足を掬われ悄気た奴らは
天地神明に誓っても救われない
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