掌編小説集

546.Neroなヴェネツィアン・グラスにBiancaのダリアを飾る

彼はモテる
とてつもなくモテる

顔はイケメンと騒がれる部類だし
クールあんどビューティーみたいな

私とじゃ到底釣り合わないし
勝算なんて皆無だけれど
諦めるなんて出来なかったから
玉砕覚悟で告白したら
なんの奇跡かオッケーだった


だから不安になる
だから心配になる

奇跡が起こってしまったからこそ
現実と向き合わなければならない


ディスカウントよろしく釣った魚に餌をやらない
目に見える愛情表現がほとんど無い寡黙さんだから


けれど
偶然出くわした場面で
盗み聞きするようにして聞こえた
私以外と付き合う気もなければ出かける気もないから
なんて昂然たる口ぶりではっきり断ってくれた


言葉で気持ちが上手く伝わらなかっただけ
どれだけ好きか分かってる?
辛そうな顔をしながら言われて
どこかの少女漫画みたいって現実離れ


いつまでも自分を好きでい続けてくれる
そんな安心感を感じ取って更に惹かれる

あんまり優しくないし慰めてもくれないけど
何が一番私の為になるかを考えてくれていた


暫くの間忙しいから連絡できなくなる
落ち着いたらするって言ってた彼から
今日仕事終わったら少しだけ会えない?
なんて唐突に連絡がきた


嬉しくて嬉しくて即返信をして
ドキドキしながら待っていたら
私が彼を遠目に目視して約数秒
真顔プラス無言で抱き締められた


カチコチの体と沸騰しそうな頭で
どうしたの?と一言だけ聞いたら

自分勝手は重々承知しているんだけど
全然会えなくてもう我慢の限界なんだ

なんて


恋は長所を見つけることらしい
愛は短所を認めることらしい


見つけたのは
彼は不器用なだけで心を開いてくれていること

認められたのは
モテる彼は本当の彼じゃなかったってこと


エンゲージリングとマリッジリング
それだけでは証になんてなりはしない
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