掌編小説集

550.恐み恐み申すと祭服で口承を執行うはフォークロアではなくリアリティー滴る陳腐なノンフィクション

仕事が順調そうとか
子供がいるからとか
充実してそうだとか
幸せそうだったとか

そうで無く


なんで話してくれなかったんだとか
気付くことが出来なかったんだとか

きっと違う


誰にも気付かれたくなかっただけ
死にたいじゃなくて消えたいだけ

皆が抱いているイメージの人でいたかった
和気藹々な時だけは何も考えたくなかった

些細なことで迷惑なんてかけたくないから


紙一重で目指すのはいつも通り
無意識にポツリと呟いた言葉達
虚しく響く大丈夫なんて空元気

魔法の呪文なんてのは得てして
独り言つだけで成立してしまう

本人が思っているほど大丈夫じゃない
本人が言えば言うほど信用はしないで
ただ単に言い聞かせているだけだから


誰かが絶対に見てくれているからなんて
弛まぬ努力をすれば報われると押し付け

見えないところでしても誰も見てはくれない
奇跡的に見たところで何も感じてはくれない
粗探しではなく掘り下げているだけと宣って
眠らない方が閃くことがあると平気で嘯いて
信じ続ける真実は知りたくもない事実と化し
がむしゃらな結果に裏切られる羽目になって

それが当たり前になる裏で
アピール上手が蔓延るだけ


休んだり引き返したり諦めたり
雁字搦めを解きほぐし手放して
新たな道を探すことが最善の策

けれど他でもない自分自身の過剰さによって
生じた迷いから排除した選択肢が行動を縛り
妥協案すら思い浮かばないのは致命的な障碍


自分と他人による二正面作戦


剣先を軽やかになど躱せずブラインド
尽きているのに無理矢理奮い立たせた
それを回復の兆しと誤解し動き続ける

決して完治した訳ではないのだから
何かの拍子にいとも容易く開いた傷
知ってしまった幸せが最大の不幸で
根元から折れてしまったルドベキア


脆弱を嘲笑うことすらなく
諸刃の剣は眼中にさえなく


分かったつもりでいたけど
何一つ分かっていなかった

他の誰よりも長く傍にいたのに
ちっとも近付けた気がしなくて
全く心の思考が見えていなくて
追い込まれたことすら認識せず
合祀出来ぬままに自我は遠退く


死にたくなる理由なんてずる休みと同じ
ヒビだらけの心の隙間に打ち込まれた楔
最期の一線を越えるなんて大それている
留められるスイッチなんて有りはしない

死ねば行かなくていいんだって
面倒をやらなくていいんだって


一瞬魅せられ思ってしまっただけ
一瞬すると思ってしてしまうだけ
一瞬すると思ってしなかっただけ


判断能力など気に食わない程無いに等しく
私が今生きているのは単にしなかっただけ


ただそれだけのことで
そんなものでしかない
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