掌編小説集
551〜600

551.瑕を創き疵になった傷にJe t'embrasse‐キス‐を

力を貸して協力して欲しいと頭を下げられた




強制どころか理論の破綻もないけれど
危機感さえ上回ったど真ん中の大暴投

当局に属する貴方の立場としては
常識的な提案ではないことは明白



難しくはないけれど容易いものでもない

規範であるルールを破り逆らってまでも
誰かが許さないと誰も救われないからと

マル被から真を解き明かすことを託され
正義の為に立ち上がって成し遂げること


暗黙の了解で触れないのが正解だと誰しも知っている
都合の悪い情報だけを隠そうとする意思を暴くことは
周りからみたら過剰な干渉であり間違いかもしれない
正確に歪みきったこの界では咎に類されてしまうから


必ずしも解決に導けるわけがなく
鵜呑みにした挙げ句
危機的状況になれば
あいつのせいでと責任転嫁されて


常に本番の人生は乾坤一擲の大勝負
下手をすれば手柄を上げるどころか
余計なお世話だと恩を仇で返されて
愚か者としてその名を馳せてしまう


劇場開演の幕を上げるのは
観客の私でも貴方でもない

立場を弁えるべき害のある軽微な存在
大舞台で終演を迎えることが出来ない
自分軸に魅せられてしまった主演様へ

余計なお世話かもしれないけれど
猫の手を貸して差し上げましょう





断ったらどうするんですか?
と少し素っ気なく興味が無いふりして聞くと

そ、それはお願いするしかない
と予想外の返しだったのか慌てたように言う





目に見えているいつもの片側の表面
同時に存在しているもう片側の裏面
リアルと平行するもう一つのリアル

一つしか存在してない空を見上げていても
同じ景色かどうかなんて確かめる術がなく
観察することも出来ず想像で補うしかない

誰にも傷が付かないようにと
一生背負わなければならない
遥か広大で複雑な孤独だから


確証がなくてもそれ以上聞かなかったのは
強くなくていいから優しくなりたかったと
察したことで信じたい者を信じられたから

貴方が覚悟を決めているのに
私に問われる所以はないから


救われた訳でも赦された訳でも無いけれど
個人的な思いをただの情報としては扱わず

心も体も時間も無限ではないし
祈り願うだけでは手に入らない


足元にも及ばないかもしれない
怖くて震えるほどかもしれない

それでも蹌踉めきながら捗々しく

誰かを助けたくて何か出来る事をしたくて
すべてが壊れる恐怖の中で綱渡りしていて

正義感が暴走し無茶してしまわないように
慎重すぎて未来を潰してしまわないように



誰の目にも触れない場所で独り泣くような
隠しきれもせず窮し顔に透ける貴方の脆さ
世界の為に命を捨てようとする超困った人


言えないとハッキリ言えるのは後ろめたいからではなく優しさで
何色か見た目で分からない球根のように咲いてからじゃ遅いから


いつも通りのことしか出来ないと言って
いつも通りを信頼して頼んでいるからと
余計な詮索もしないで言いきってしまう




理想論だけで生きていけるのは
何て贅沢と気付いてしまっても
進むべき贖罪の術を見出だして
無報酬を条件に麗沢を承諾した




綿密な知識と緻密な嘘を組み合わせ
ガセを見抜いた上でデマにすり替え
世界のズレを伊達IPアドレスで欺く

違和感を立証してみせろと言われても
立証して欲しいのはそちらでしょうと
黒が反射すると白になるスペクタクル

如何様なテクニックを見破れないならば
事実を積み重ねた真実と大差なんてない



世界中のデータベースで繭が開き
根回しさせる間も無く羽を広げて
起動した箱庭でパルファムを撒き
HTTPステータスコードを駆使して
接続させたプロトコルを飛び回り
覆う鱗粉の雪を認識させれば完了

夜の蝶がご足労願ったバーチャル
舞い遊ぶ醍醐味は私のテリトリー
好奇心は猫を殺すことを御膳立て





I believe what you saidで往なすから
気持ちいいぐらいの綺麗事に対して
貴方の正義が悪でないことを証明し
金では買えない信頼に応えましょう
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