掌編小説集

584.交際申告書を提出しても良いと考えます

ふらふらと壁にぶつかりそうになるのを止めてくれて
その原因である高熱を解熱剤で済まそうとする私を
説明は自分がするからと言って病院へ連れて行ってくれる
治療を受けている間に買い物をして家まで世話を焼いてくれた

張り込み中に女性達に囲まれナンパされて目立っていた貴方を
上司の許可を得たとはいえ更に目立つ方法で騒ぎを収める
ヤキモチを焼いて強引にキスをした上で私のモノだからと自慢気に彼女宣言
犯人が近付いてきたので誤魔化す為に抱きついて肩越しに観察する
私の謝罪を貴方は寧ろ助かったと感謝で返してくれた

酔った感覚が分からないからお酒を飲まない私に合わせて食事に誘ってもお酒を控えてくれる
その時の笑みが硬いからお酒を飲めるようになろうと思って貴方の誘いを断り練習を重ねる
家だけではなく場所を変えるのも良いと聞いて公園で飲んでいたら貴方に見付かってしまった
酔っていないという千鳥足の私に
そんなにふらついている人が酔っていないわけがないと貴方はゴミを纏めて私を家に送る

水を持ってきた貴方はお酒を飲んでいた理由を問う
けれど私には言うつもりがない
これは私の問題だから貴方に迷惑はかけられない
貴方には関係がないことで言う必要性はないと考えます
そうですねそうですよね僕には関係がないですよね僕は必要ないですもんね分かりました失礼します
早口にそう言って踵を返し出て行った貴方を傷付けてしまったのだと悟る

周りの会話や質問に対する答えで私は私の性格や表情をチューニングしてきた
今までは多少変な人でもそれで良くて周りが事情を知ったこれからはそのままでも良いと考えていた
組織に必要とされなくても今の部署には必要とされていることを認識しているけれど

定時には帰ることは少ない貴方をほとんど定時あがりの私は待っている
エントランスにいた私に貴方は驚いているけれどそれを無視して
夜分遅くにすみませんと私は謝罪する
私は私の感情が分かりません
ですから貴方を傷付けてしまったことは分かっても理由までは想像出来ません
これ以上貴方に迷惑をかけるつもりはないので安心してください
今まで私の面倒をみていただいてありがとうございました
謝罪を済ませたら用はもうない
貴方の時間をこれ以上奪うつもりもない
お時間をいただきありがとうございましたと帰ろうとしたら手を掴まれた
冷たっ一体いつからここにいたんですかとりあえずあがってください
意味を聞く前に答えを言う前に手を引かれて温かい飲み物を渡される

気付いたら目で追っていたとか
捜査なのに浮足立っていたとか
家まで送るのに偶然を装っていたとか
食事でもお酒でも一緒にいたかったとか
緊張していたから表情が硬かったとか
私に必要とされたかったとか
他の人とは違う繋がりを持ちたかったとか
同僚以外の関係性になりたかったとか
私に恋愛感情が無いからこそ渡したくなかったとか

私が素のままで気にするのは貴方だけだと言ったら貴方はどんな反応をしてくれるだろうか
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