掌編小説集

621.「イマドキ」は現在進行系だけど「私の頃は」とか「昔は」とか「あの時代は」とかもう過去形だから

結婚とは家族と家族がするものだから早く貴女も私に認められるように○○家の嫁として○○家の名に恥じぬようにたゆまぬ努力をしなさい私もそうやって認められてきたのよ

家督制度は廃止されましたがいつの時代を生きていますか?

どの地盤を引き継ぐのですか?

どんな遺産を受け継ぐのですか?

跡継ぎってなんの跡を継ぐのですか?

私は嫁に来た訳じゃありません

相棒?コンビ?パートナー?ソシア?

いえいえただ結婚をして妻になっただけです

お前みたいな腰掛けの小遣い稼ぎではなく

お前の息子に養う能力が無いから生きる為だから

まあそれでも嫁になってやってもいいし

当然介護なんてもんはお前の息子がやるから私には関係無いけれど

そこまで言うなら仕方が無いと譲ってやって

まあ図太くて強い人だからどこでも必ず逞しく生きていくだろうけれど

お手伝い程度ならやってやってもいい

サポートは必要だと思っていますからどこまでをお求めですか?

面倒を見るには段階がありますからそのレベルに合わせた財産がありますか?

特に希望はありませんとは寛容なことではないから

私へのお給料はもちろん相場と同程度で構いませんよ

ただしそれ相応の遺産はあるのだろうね?

権利が無ければ義務でも無いことを果たしたりはしませんよ

自分を利用して操ってこようとする人に対しては

操られたフリをして逆に利用するだけ

目的は一体なに?と問うたら

このタイミングで明かしたことが大概手掛かりである

結婚さえすればこっちのものだとでも思っていた?

太鼓持ちにでもなると思った?

この程度で怖気づくと思われていたとは随分と甘く見られたものだ

制圧したとしても味方になんてなりはしない

常に敵に取り囲まれていることを忘れるな

定めを蔑ろにするカラクリトリックは

居残らせたただの便利使いの無料家政婦

自分が苦労したから嫁が楽をするのは許せない

対極で宿敵に狙いを付けたら手に入れて

目的を果たしたら間違った足枷をはめようとする

嫁を同じように苦労させて自分の人生の帳尻を合わせたがる

そしてこれからは私の時代で至福の時間の始まりと貪りたがる

自分は家事も育児も仕事さえも完璧だったなんて

裏を返せば自分以外は木偶の坊だったと言っているのと同じって気付きませんか?

確かに凄いかもしれないけれどもお前の息子はお前に似なかったようだ

見習えとか口答えとか遠く及ばないとか

信用されていても好かれてようとも矢面には立たない

立とうともしないお前の息子には大事にはされていないだろうから

自分では手が届かない遠い存在にすれば安全だと安心出来る部分もあるけれど

手の届く範囲の近くで暴走を見ている方が幾分か救われて吹っ切れるから

脇の甘さに瞳を挑戦的に光らせてニコリと微笑む

その笑顔に張り付けてきたおすまし清楚な印象は欠片も無いだろう

相手の感情を認めながら主張に耳を傾け言葉を繰り返す交渉術なんかを挟んで

はるか昔に自重なんてもんはどこかに置いてきたし

私は竹を割った性格で根には持たないし

和解なんてしても決して仲直りの和合ではないから

ここで腰が引ける遠慮なんてする気は全くない

今までみたいに遠回しではない

次は外さない

外しはしない

一人でやるってことは守ってくれる人なんて居ないけれど

私を止める人も居ないってことだから

面倒な手順を踏まなくても良いようにガス燻蒸を

凄みを感じさせるお行儀の良いお作法でゴングを鳴らす

グチグチ何が仰りたいんですか?思ったことはハッキリ言って下さいよ

私は空々しく伝統の奴隷で襤褸になるなんて真平御免ですから
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